弁護士コラム

養育費の強制執行とは?差し押さえの条件や手続の流れ、注意点を解説!

養育費の強制執行とは?差し押さえの条件や手続の流れ、注意点を解説!
  • 公開日:2025年7月7日
  • 更新日:2025年07月07日

離婚後に約束どおり養育費が支払われないとき、検討したい手段の1つが「強制執行」の手続です。
強制執行により元配偶者の財産や給与などを差し押さえることで、未払いの養育費を回収できる可能性があります。

ただし、強制執行を申し立てるためには事前に適切な準備が必要です。

そこでこのコラムでは、養育費の強制執行に関する基礎知識や、メリット・デメリット、具体的な手続の方法・流れなどを解説します。

離婚後お子さまと安心して暮らしていくために、養育費の未払いでお困りの方はもちろん、離婚に向け準備をしている方も、ぜひ参考にしてみてください。

この記事を読んでわかること

  1. 強制執行で未払い養育費を回収する方法・流れ
  2. 強制執行をするメリット・デメリット
  3. 強制執行をせずに養育費の支払いを促す方法

養育費の強制執行とは?

養育費の強制執行とは、裁判所を通して養育費の支払義務を負っている相手の財産を差し押さえ、強制的に養育費を回収する手続です。

養育費の取決めをしたにもかかわらず、約束どおり支払われない場合には、状況に応じ強制執行の手続を検討することになります。

強制執行をするための条件

強制執行を申し立て、実際に養育費を回収するためには、以下の条件を満たしている必要があります。

  • 債務名義を取得している
  • 相手の住所、財産・勤務先を把握している
  • 相手に支払能力がある

たとえば、養育費の支払いについてそもそも取決めをしていない場合や、口約束をしただけというような場合、すぐに強制執行を行うことはできません。まずは、「債務名義」を取得しましょう。

また、相手の住所や財産・勤務先がわからなければ、事前に調査する必要があります。

強制執行をするために必要な債務名義

養育費の強制執行を申し立てるには、養育費について取り決めた内容を記載した「債務名義」を取得しておく必要があります。

債務名義とは、「誰が誰に、どのような請求権を有しているか」を証明する公文書です。
具体的には、以下の書面が挙げられます。

  • 執行受諾文言付の公正証書
  • 調停調書
  • 審判書
  • 和解調書
  • 確定判決 など

調停・審判、裁判など、裁判の手続で養育費を取り決めた場合には、必ず債務名義が作成されます。

一方で、父母間の話合いで養育費を取り決めた場合、執行受諾文言付の公正証書の作成が必要です。
合意書や離婚協議書、執行受諾文言のない公正証書を作成していたとしても、ただちに強制執行を申し立てられないため注意しましょう。

強制執行で差し押さえられる財産

強制執行で差し押さえられる財産には、債権、不動産、動産などがあります。
具体的には、以下のような財産を一定の範囲で差し押さえることが可能です。

財産の種類 差押え可能な金額の範囲
給与(賞与) 毎月の手取りの2分の1の額まで
毎月の手取りが66万円を超える場合、総額から33万円を差し引いた残額
預貯金 強制執行時の口座残高を上限として制限なし
生命保険 解約返戻金相当額
土地・建物 売却額(ローンが残っている場合は控除後の残額)
自動車 売却額(ローンが残っている場合は控除後の残額)
貴金属 売却額
現金 総額から66万円を差し引いた残額

養育費の場合、一般的には給与や預貯金を差し押さえるケースが多いといえます。

養育費の強制執行をするメリット・デメリット

強制執行によって未払いの養育費を回収するメリット・デメリットは、以下のとおりです。

メリット

強制執行の大きなメリットは、相手に財産があれば、支払う意思の有無にかかわらず養育費を確実に回収できることです。

また、給与を差し押さえた場合、未払い分だけでなく将来発生する養育費も継続して差し押さえられます。
毎月相手の勤務先から直接、お金が支払われることになるため、安定して養育費を受け取れるようになるでしょう。

なお、将来分の養育費については、預貯金などから一括で支払わせることはできません。

デメリット

一方で、強制執行の手続には時間や手間がかかるというデメリットもあります。
強制執行の手続をするには、必要書類を集め、適切に申立書を作成しなければなりません。

また、相手の住所や財産、勤務先などの調査も必要です。
しかし、離婚してから何年も経っているような場合、相手の住所や勤務先が変わっている可能性もあります。
そうなれば、調査に時間がかかってしまうことも少なくありません。

ご自身での対応が難しい場合には、弁護士へ相談したほうがよいでしょう。

強制執行をせずに養育費の支払いを促す方法

このように、強制執行の手続にはメリットだけでなくデメリットもあります。
そこで、強制執行の手続をとる前に「履行勧告」「履行命令」を申し立てることも検討するとよいでしょう。

「履行勧告」「履行命令」は、離婚の際、調停・審判、裁判などで養育費の取決めをしていた場合に利用できる手続です。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

履行勧告

履行勧告は、裁判所から相手方に対して、養育費を支払う約束を守るように伝えてもらう制度です。

履行勧告によって養育費を強制的に支払わせることはできませんが、裁判所から督促されることで相手がプレッシャーを感じ、支払いに応じる可能性があります。

また、履行勧告には費用がかかりません。
口頭での申立ても受け付けてもらえる簡単な手続のため、「強制執行」の手続をとる前に利用してみるとよいでしょう。

履行命令

履行命令は、裁判所から相手方に対して、養育費を支払う約束を守るように「命令」してもらう制度です。
相手が履行命令に正当な理由なく従わない場合、10万円以下の過料に処せられます。

ただし、履行勧告と同じように、履行命令によって養育費を強制的に支払わせることはできません。
また、申立書の提出や数千円程度の手数料・郵券代などが必要です。

養育費の強制執行の流れ

強制執行の手続は、大まかに以下の流れで進めます。

  1. 相手の住所、財産・勤務先を調査する
  2. 必要書類を準備する
  3. 裁判所へ強制執行を申し立てる
  4. 裁判所による差押命令が出される
  5. 未払いの養育費を取り立てる

以下で詳しく見ていきましょう。

①相手の住所、財産・勤務先を調査する

強制執行を申し立てるには、相手の住所と財産・勤務先などの情報が必要です。

相手の住所がわからない場合は、戸籍の附票や住民票を取得して調査しましょう。
弁護士に手続を依頼した場合には、「職務上請求」で代わりに調査してもらうことも可能です。
相手の電話番号や携帯のメールアドレスなどがわかれば、「弁護士会照会」によって調査できる可能性もあります。

相手の財産は、債務名義があれば「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」などによって調査することが可能です。
ただし、どちらも裁判所への申立てが必要な手続であるため、ご状況によっては弁護士などに依頼したほうがスムーズでしょう。

②必要書類を準備する

強制執行を申し立てるには、以下の書類が必要です。

強制執行の必要書類
書類名 必要性
申立書 必ず
債務名義の正本 必ず
送達証明書 必ず
確定証明書 債務名義のうち審判書・判決書を使用する場合
以下のいずれか1つ
  • 戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 住民票
  • 戸籍の附票 など
あなたの現在の氏名・住所が債務名義のものと異なる場合
相手の勤務先の登記事項証明書 給与を差し押さえる場合
金融機関の登記事項証明書 預貯金を差し押さえる場合

差し押さえる財産の種類によっては、このほかにも書類が必要になることがあります。

③裁判所へ強制執行を申し立てる

必要書類をそろえたら、原則として相手の住所地を管轄する裁判所に強制執行を申し立てます。
申立ての際にかかる費用は以下のとおりです。

強制執行の申立費用
内訳 金額
申立手数料 4,000円(債権者1人,債務者1人,債務名義1通の場合)
郵便切手代 3,000円~4,000円程度(裁判所によって異なる)

強制執行を申し立てたあとは、裁判所によって申立書をはじめとする書類が審査されます。

④裁判所から差押命令が出される

審査の結果、強制執行が認められれば、裁判所から債務者である相手と第三債務者(相手の勤務先、預貯金をしている金融機関など)に差押命令が出されます。

差押命令を受け取った第三債務者は、裁判所へ陳述書を返送しなければなりません。

陳述書が返送され、差押えに成功すると、申立人であるあなたのもとにも差押命令の送達通知書と第三債務者が作成した陳述書が送られてきます。

⑤未払いの養育費を取り立てる

養育費の場合、差押命令の送達から1週間が経過すると、取立てができるようになります。

たとえば、給与であれば相手の勤務先に連絡し、支払方法(振込先の口座など)を伝えましょう。
将来分の養育費も差し押さえた場合、今後は相手の勤務先から直接、毎月の養育費が支払われるようになります。

養育費の強制執行をしてもお金を取れないケース

強制執行をするための条件が整っており、適切に手続を行った場合でも、以下のようなケースでは養育費を回収できないおそれがあります。

相手が退職・転職したケース

給与を差し押えたあと相手が勤務先を退職してしまうと、原則として差押えの効力はなくなります。
差押えの対象であった給与が発生しなくなり、勤務先は「第三債務者」ではなくなるためです。

未払い分の養育費を全額回収できていない場合や、将来分の養育費を差し押さえていた場合には、改めて強制執行を申し立て、新たな勤務先の給与やほかの財産を差し押さえなければなりません。

預貯金の口座残高がないケース

預貯金を差し押さえたとしても、その時点で口座残高がない・少ない場合には、養育費を全額回収できないおそれがあります。
そうなれば、改めて強制執行を申し立てなければなりません。

そのため、給与や賞与が振り込まれるタイミングを見計らって強制執行を申し立てることも検討しましょう。

また、弁護士に強制執行の申立てを依頼すれば、「弁護士会照会」により相手の預金口座の有無や取引状況などを調査できる場合があります。

まとめ

取り決めたはずの養育費が支払われないのであれば、相手の財産を差し押さえ、強制的に養育費を回収する「強制執行」の手続をとることを検討するとよいでしょう。

ただし、強制執行を申し立てるには、「債務名義」が必要になります。
そのため、特に父母間の話合いで養育費を取り決める際には、養育費の不払いが起きたときに備えて執行受諾文言付の公正証書を作成しておくことが重要です。

アディーレ法律事務所では、離婚に伴い養育費を取り決めたい方はもちろん、離婚後に養育費が支払われずお困りの方からのご相談も承っております。
きちんと養育費を受け取りたいとお考えであれば、まずはお気軽にご相談ください。

監修者情報

林 頼信

弁護士

林 頼信

はやし よりのぶ

資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
慶應義塾大学法学部

どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。

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