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離婚後の共同親権とは?導入の背景やメリット・デメリット、改正のポイント

離婚後の共同親権とは?導入の背景やメリット・デメリット、改正のポイント
  • 公開日:2024年1月29日
  • 更新日:2024年04月25日

子どもがいる方にとって、離婚をする際に「親権を獲得できるかどうか」はとても重要な問題です。

なかには、近年導入が検討されている「離婚後の共同親権」に関心を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこでこのコラムでは、共同親権の制度の概要に加え、共同親権のメリット・デメリット、離婚後の共同親権の日本への導入時期や、民法改正のポイントを解説します。
離婚後の共同親権について、理解を深めていきましょう。

この記事を読んでわかること

  1. 共同親権の概要
  2. 離婚後の共同親権を認めるメリット・デメリット
  3. 離婚後の共同親権の導入時期と改正のポイント

共同親権とはどんな制度?

「共同親権」とは、父と母の両方が子どもの親権を持つ制度のことをいいます。

そもそも親権は、未成年の子どもを成人まで育て上げるために親が負う一切の権利・義務のことです。子どものために行使できる権利であるとともに、教育を受けさせたり、財産を管理したりといった大きな責任を伴います。

これらの権利・義務を父と母の両方が負うのが「共同親権」です。

なお、親権について詳しくは、以下のページも参考にしてみてください。

親権について詳しく見る

日本の親権制度における共同親権

日本では、結婚している父母に共同親権が認められています。

ただし、離婚後は共同親権が認められておらず、父と母のどちらか一方しか親権を持つことができません。つまり、子どもの親権者を父と母のいずれかに決めなければ、離婚できないということです。
これを「単独親権」といいます。

親権には、「子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする権利義務」である「監護権」が含まれます。親権と監護権は、例外的に別々に定めることもできますが、同一の親に帰属するのが原則です。
つまり、一般的には、親権者(監護権者)となったほうの親にのみ、子どもと一緒に生活したり、教育方針を決定したりする権利があるということです。

そのため、離婚時には親権をめぐって争いになるケースが少なくありません。

再婚で共同親権が認められるケース

離婚後の共同親権が認められていない日本でも、親権者である親が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をするケースでは共同親権が認められます。
これは、法律上、未成年の養子は養親の親権に服する(民法第818条2項)とされているためです。

再婚相手は養子縁組によって親権を獲得し、その親権はもともと親権を有している実親と再婚相手の共同親権となります。

なお、実親と再婚相手の共同親権となった場合も、離婚時に親権者とならなかったほうの親と子どもの法律上の親子関係がなくなることはありません。
そのため、面会交流を取り決めていた場合などには、養子縁組したことだけを理由に面会交流を中止することはできません。

離婚後の共同親権はなぜ必要?導入が検討された背景

日本では、離婚に伴う子どもの養育への影響や、子育てのあり方の多様化などを受け、「家族法制」を見直す議論がなされ、離婚後の共同親権の導入も検討されています。

これまで離婚後の単独親権をとってきた日本で、共同親権の導入が検討されているのには、以下のような背景があると考えられるでしょう。

海外では離婚後の共同親権を認めている国が多数派

2020年に法務省が発表した『父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査』によると、調査を行った24ヵ国のうち、22ヵ国が共同親権を認めています。

共同親権を認めている国 共同親権を認めていない国
アメリカ(ニューヨーク州・ワシントンDC)、カナダ(ケベック州・ブリティッシュコロンビア州)、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、インドネシア、韓国、タイ、中国、フィリピン、イタリア、イギリス(イングランドおよびウェールズ)、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、ドイツ、フランス、ロシア、オーストラリア、サウジアラビア、南アフリカ インド、トルコ

このように、離婚後の共同親権が認められていない国は、国際的に見てもわずかです。
離婚後の共同親権を認めている国との法制度の違いが国際離婚の際に問題となるおそれもあるため、離婚後の共同親権を認めないことが妥当であるかは、検討の余地があるといえるでしょう。

なお、離婚後の共同親権の内容は国ごとに異なり、共同行使する事項を具体的に限定している国や、単独親権を選択できる国もあります。

欧州連合(EU)の欧州議会本会議による「子どもの連れ去り」への指摘

国際離婚の際の「子どもの連れ去り」に関する問題がひとつのきっかけとなり、離婚後の共同親権導入が日本でも積極的に検討されるようになりました。

国際離婚に伴い、親権を獲得しようとする日本人の親が、海外の居住地から子どもを連れて日本に帰国してしまうことがあります。
しかし、過去の日本では、強制的に子どもを返還する法整備がなされていませんでした。そのため、子どもを連れ去った親が子どもの返還を拒否し、元の居住地に住む親が子どもに会えなくなってしまったのです。

これを受けて、日本は2014年にハーグ条約を締結しました。
ハーグ条約では、16歳未満の子どもを無断で居住国外へ連れ去った場合、原則として元の居住国へ返還することが義務づけられています。そのため、国際離婚の「子どもの連れ去り」に対応できるようになりました。

しかし、2020年7月に開催された欧州議会本会議において、EU籍の親に対する日本からの子どもの返還の執行率が低いことなどが指摘されたのです。そして、ハーグ条約のもとで子どもの返還が効果的に執行されるために、共同親権を認め国内法制度を改正するよう求められました。

このように、法制度の違いが実際に問題視されていることは、離婚後の共同親権導入が議論されるきっかけになったといえるかもしれません。

離婚後の共同親権を認めるメリット・デメリット

離婚後の共同親権を認めることは、さまざまな問題に対応できるようになるだけでなく、離婚の当事者である親や子どもに大きなメリットがあります。しかし、反対にデメリットもあるのです。

以下では、離婚後の共同親権を認めるメリット・デメリットをそれぞれ解説します。

共同親権のメリット

離婚後の共同親権を認めることには、主に以下のようなメリットがあります。

  1. 離婚時の親権争いの激化を防げる
  2. 離婚後も両親で協力して子育てできる
  3. 面会交流・養育費の支払いがスムーズに行われやすい

それぞれ詳しく見ていきましょう。

離婚時の親権争いの激化を防げる

共同親権が認められれば、離婚時に親権争いをすることが少なくなります。
親権争いによって両親の関係が必要以上に悪化することも防げるため、子どもの精神的な負担も軽減できるといえるでしょう。

また、親権者を決めるための調停や裁判なども、原則として必要な機会が少なくなります。そのため、離婚成立へ向けてスムーズに進められる可能性も高まるでしょう。

離婚後も両親で協力して子育てできる

単独親権のもとでは、親権者である親が、子どもを育てる義務や責任をすべて一人で抱え込んでしまうケースは少なくありません。

しかし、共同親権のもとでは両親に子どもを育てる義務や責任があるため、離婚後も協力して子育てできるといえます。
また、子どもが両親からの愛情を感じられる機会が増えるため、心身の健やかな成長につながることも期待できるでしょう。

面会交流・養育費の支払いがスムーズに行われやすい

単独親権のもとでは、親権者である親の許しを得て、取決めに従い面会交流をする必要があります。そのため、親権者ではない親と子どもの関わりが制限されてしまいます。

子どもとの関わりが制限された親は、子どもに対する愛情や責任感が薄れてしまい、養育費の不払いが起きるケースも少なくありません。

しかし、共同親権のもとにおいては両方の親に子どもと関わる権利があるため、面会交流がスムーズに行われやすくなるでしょう。
頻繁に会うことができれば、離れて暮らす親も子どもへの愛情を持ち続けることができるため、養育費が滞りなく支払われることが期待できます。

養育費について詳しく見る

共同親権のデメリット

共同親権が導入されると相手も親権者となる以上、基本的には面会交流を拒否できなくなります。
そのため、主に以下のようなデメリットが考えられるでしょう。

  1. 子どもへの負担が大きい
  2. 遠方への引っ越しが難しい
  3. DVやモラハラから逃れられない

それぞれ詳しく解説します。

子どもへの負担が大きい

定期的な面会交流が必要になるため、子どもは離れて暮らす親に会うことに多くの時間を費やさなければならず、生活に負担がかかってしまうおそれがあります。

また、共同親権のもとでは父と母の両方が親権を行使できるため、両親に意見の違いがあれば争いに発展することもあるでしょう。子どもが板挟みになってしまえば、精神的な負担も大きくなるといえます。

遠方への引っ越しが難しい

定期的に面会交流をするためには、離婚した夫婦がある程度近くに住む必要があるといえます。

そのため、遠方の実家に住みたい方や仕事の都合がある方にとっては、引っ越し先が制限されてしまうことがデメリットとなることもあるでしょう。

DVやモラハラから逃れられない

単独親権のもとでは、親権者となった親が面会交流を拒否できるため、離婚することでDVやモラハラから逃れることが可能です。
しかし、共同親権が導入されることで、離婚してもDVやモラハラから逃れられなくなってしまうおそれがあります。

この点は、「家族法制の見直しに関する中間試案」に関して国民から意見を募ったパブリック・コメントや共同親権反対の院内集会でも指摘され、議論されています。
共同親権導入においては、DVやモラハラの被害者である親子に危険がおよばないよう、制度の整備や配慮が必要であるといえるでしょう。

日本の「離婚後の共同親権」導入はいつから?議論の状況

共同親権の導入へ向けた「法制審議会家族法制部会」は、2021年から30回以上にわたり開催されています。

2023年の8月には家族法制の見直しに向けた要綱案のたたき台が公表され、これまでさまざまな観点からとりまとめのための議論が続いていました。

そして、2024年4月12日の衆議院法務委員会で一部要網案が修正されたのち、2024年4月16日の衆院本会議において、離婚後の共同親権を導入する民法改正案は賛成多数で可決されました。
2024年4月19日に参議院で審議が始まり、今国会で成立、2026年までに施行される見通しです。

離婚後の共同親権に関する民法改正の6つのポイント

現在審議されている民法改正の主なポイントには、以下の6つが挙げられます。

  1. 共同親権・単独親権を選べるようになる
  2. DV・虐待がある場合は裁判所の判断で単独親権になる
  3. 共同親権でも「急迫の事情」や「日常の行為」は単独で決められる
  4. 養育費の請求について新たな制度創設や権利付与がなされる
  5. 面会交流の早期の申立てや親族による申立てが可能になる
  6. 成立すれば公布後2年以内に施行、5年をめどに見直しされる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①共同親権・単独親権を選べるようになる

改正案では、夫婦の話合いによる離婚(協議離婚)の場合、共同親権・単独親権のどちらにするかを夫婦で話し合って決めなければなりません。
夫婦の話合いでまとまらない場合は、裁判所が親子の関係などを踏まえて判断します。

さらに、すでに離婚が成立している場合も、単独親権から共同親権への変更の申立てができるようになるのが、大きなポイントです。

なお、父母間にDV・虐待がある場合、「対等な立場で話し合えず共同親権の合意を強制されるおそれがある」と懸念されています。
そのため、付則に「親権者の定めが父母双方の真意であることを確認する措置について検討を加える」と定めています。

②DV・虐待がある場合は裁判所の判断で単独親権になる

以下のような場合、裁判所の判断で単独親権にしなければならないとしています。

  • 子どもへのDV・虐待などのおそれがある場合
  • 父母間にDV・虐待があり共同親権の行使が難しい場合

しかし、精神的・経済的なDVや過去のDVなど、「物的証拠の提示が難しい場合に裁判所が適切に判断できるのか」と指摘する声もあるようです。

③共同親権でも「急迫の事情」や「日常の行為」は単独で決められる

離婚後に共同親権となった場合、原則として子どもに関することは父母が話し合って決める必要があるとされています。たとえば、子どもの進学や住居などについては、父母の話合いが必要です。
父母の意見が折り合わない場合に限り、裁判所が判断します。

ただし、共同親権でも「急迫の事情」や「日常の行為」は、父母のどちらかが単独で決められます。

「急迫の事情」として想定されているのは、以下のような事情です。

  • DV・虐待などからの避難
  • 緊急の医療行為
  • 入試結果発表後の入学手続 など

「日常の行為」とは、「何を食べさせるか」などの行為です。

より詳しい具体例については、付帯決議により「ガイドラインを制定し明確化すること」が求められています。

④養育費の請求について新たな制度創設や権利付与がなされる

改正案では、取決めをしなくても一定額の養育費を請求できる「法定養育費制度」が創設されました。
また、養育費の支払いが滞った場合に、ほかの債権者よりも優先的に財産を差し押さえられる「先取特権」を付与することとしています。

これにより、養育費を請求するハードルを下げ、未払いの解消につなげることが期待されています。

⑤面会交流の試行的な実施や親族による申立てが可能になる

面会交流について調停や裁判で取り決める場合、手続中であっても裁判所が試行的に交流を促せるように定めています。
これは、別居や離婚で離れた親子を早い段階で交流させることで、その後の面会交流を円滑に実施することが目的です。

また、父母のみに限らず、祖父母などの親族も一定の条件で面会交流を求める申立てができるようになります。

⑥成立すれば公布後2年以内に施行、5年をめどに見直しされる

改正案が今国会で成立した場合、公布後2年以内に施行されます。
なお、施行後5年をめどに、制度などを再検討することとしています。

離婚の際に親権問題で悩んだら弁護士へ

現在の日本では離婚後の共同親権が認められていないため、離婚するためには子どもの親権者を取り決めなければなりません。父と母のどちらが親権者となるか、争いになってしまうこともあるでしょう。
しかし、話合いの際にもめてしまうと、離婚成立に時間がかかってしまいます。

スムーズに離婚を進めるためにも、親権問題で悩んだら弁護士へ相談・依頼するのがおすすめです。
弁護士に相談すれば、親権の獲得へ向けたアドバイスやサポートをしてもらえます。

また弁護士であれば、法的知識を駆使して、あなたの代わりに配偶者と交渉することが可能です。
そのため、親権をはじめとした離婚条件を適切に取決めるとともに、離婚問題の早期解決も目指せます。

まとめ

海外では離婚後の共同親権を認めている国も多く、日本でも民法改正へ向けて審議が進んでいる状況です。

離婚後の共同親権が認められることには、親権争いの激化防止や、子育ての面でメリットがある反面、面会交流を拒否できなくなることによるデメリットもあります。

改正案が成立した場合、公布後2年以内に施行となるため、今後離婚を検討している方やすでに離婚している方は、注目しておいたほうがよいでしょう。

現状、離婚後は単独親権となるため、離婚の際には夫婦のどちらが子どもの親権者となるか決めなければなりません。そのため、親権を争って離婚がスムーズに進まないケースも多いです。
親権者を決める話合いが進まないなど、離婚問題で悩んだ際には弁護士に相談することをおすすめします。

アディーレ法律事務所では、親権をはじめとした配偶者との離婚条件の交渉や書面作成などに関するご相談を承っております。スムーズに離婚を進めるためにも、まずはお気軽にご相談ください。

監修者情報

林 頼信

弁護士

林 頼信

はやし よりのぶ

資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
慶應義塾大学法学部

どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。

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