熟年離婚とは?原因やメリット・デメリット、後悔しないための進め方を解説
- 公開日:2023年12月07日
- 更新日:2024年09月11日
近年、定年退職や子どもの独立など、ライフステージの変化をきっかけに、長年連れ添った夫(妻)との熟年離婚を選択する方が増えています。
熟年離婚は、残りの人生を自分らしく生きるための第一歩ともいえるでしょう。
しかし一方で、熟年離婚ならではの問題点もあるため、注意が必要です。
このコラムでは、熟年離婚の現状や具体的な原因、メリット・デメリットを解説します。
さらに、事前に準備しておくべきことや、具体的な離婚の進め方も紹介していますので、離婚後に後悔しないためにも、ぜひ最後までご覧ください。
目次
この記事を読んでわかること
熟年離婚とは?
熟年離婚とは、長年連れ添った中高年の夫婦が離婚することをいいます。
明確な定義はありませんが、一般的には20年以上の婚姻期間を経て離婚する場合に、「熟年離婚」といわれることが多いようです。
熟年離婚の割合と増加の背景
厚生労働省の統計によると、年間の離婚件数自体は2002年をピークに減少が続いています。
一方で同居期間別の離婚件数をみると、離婚をした夫婦のうち同居20年以上の夫婦が占める割合は、2020年に21.5%となっており、増加傾向にあるのです。
熟年離婚が増えた背景には、女性の社会進出や年金分割制度の整備により、金銭的な面で離婚へのハードルが下がったことがあるといえるでしょう。
また、昔に比べて離婚をネガティブに捉える方が減ったことも、熟年離婚を選択する夫婦が増えた理由の一つかもしれません。
熟年離婚の原因ときっかけ
夫婦が離婚するときには、配偶者の浮気・不倫、モラハラ・DVなど明確な理由があるケースもあります。しかし熟年離婚では、明確な理由がなく、長年の結婚生活で溜まった配偶者への不満が離婚の原因となるケースも少なくありません。
そのようなケースでは、主に以下のようなことが離婚を切り出すきっかけになりやすいといえます。
配偶者の退職
配偶者が定年退職を迎え、一緒に過ごす時間が増えたことでストレスが溜まり、離婚を考えるケースがあります。
特に、「夫(妻)が家事を手伝わない」、「夫婦間の会話がまったくない」などといった場合、不満や息苦しさから熟年離婚に踏み切る方もいるようです。
子どもの独立
これまで「子どものために離婚せずにいた」というケースにおいて、子どもの独立は離婚の大きなきっかけとなります。
熟年離婚の場合、すでに子どもが成人しているケースも多いです。子どもが独立し子育てが終わったことで「これからは自分のための人生を送ろう」と考え、離婚を決意する場合もあるでしょう。
介護の問題
義親などの介護が必要になると、ストレスから夫婦関係に亀裂が生じ、離婚の引き金となるケースもあるようです。
なかには、義親との折り合いが悪いにもかかわらず介護のために同居を余儀なくされたり、介護の負担が夫婦の一方に偏ったりすることで、精神的苦痛が大きくなり離婚に至るケースもあります。
熟年離婚のメリット・デメリット
熟年離婚には、メリットがある一方で熟年離婚ならではのデメリットもあります。以下で詳しく見ていきましょう。
熟年離婚のメリット
熟年離婚には、主に以下のようなメリットがあるといえます。
- 長年のストレスから解放される
- 自由な生活を送れる
残りの人生をストレスなく自由に生きられるのは、熟年離婚の大きなメリットです。
配偶者や義親の介護の問題なども考えることなく、自分らしい人生を送ることができるでしょう。
熟年離婚のデメリット
一方で熟年離婚には、主に以下のようなデメリットがあります。
- 経済的に苦しくなる
- 家事の負担が増える
- 孤独を感じる
これまで専業主婦(主夫)だった方にとって、経済的な負担が増えるのは大きなデメリットといえます。反対に、仕事一筋で家事をすべて妻(夫)に任せていた方であれば、慣れない家事を一人でこなさなければなりません。
今より生活の質が悪くなるおそれもあるため、注意が必要です。
また、長い間夫婦生活を送ってきた分、想像以上に孤独を感じる場合もあるでしょう。離婚後はできるだけ社会との繋がりを持てるよう、心がける必要があります。
熟年離婚で後悔しないために準備すべきこと
このように、熟年離婚にはメリットだけではなく、デメリットもあります。
そのため、「早く離婚したい」という気持ちだけで離婚すると、「離婚しないほうがよかった」と後悔することになりかねません。
また、婚姻期間が長い分、裁判で離婚が認められにくかったり、お金のことが複雑になったりと、熟年離婚ならではの問題もあります。
そこで、スムーズに離婚を進めるためにも、以下の準備をしておきましょう。
別居を検討する
離婚は、夫婦間で合意ができれば成立します。一方で配偶者が離婚に合意してくれない場合には、裁判で判決を得なければなりません。そして、裁判で離婚するためには、以下の法定離婚事由が必要です。
- 浮気・不倫(不貞行為)
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
しかし熟年離婚の場合、日常生活でのすれ違いや価値観の相違が原因になっていることも多く、それだけでは裁判で離婚を認められにくいのが現状です。
そのため、まずは別居をすることも検討しましょう。具体的な事情にもよりますが、目安としては別居期間が3年以上になると裁判で離婚できる可能性がでてきます。
また、離婚前に別居をすることで、離婚後の生活を具体的にシミュレーションすることもできるでしょう。
なお別居をする場合は、夫婦の収入や財産に応じ、生活費として「婚姻費用」の分担を請求できます。詳しくは以下のページをご覧ください。
離婚後の生活について計画を立てる
離婚したあと生活に困ることのないよう、お金のことや住む場所についても事前に考え、計画を立てておくことが大切です。
特に専業主婦(主夫)の方は、状況によっては仕事を探す必要があるかもしれません。就職・転職には時間がかかる場合もあるため、早めに動き始めましょう。
また、今の家に住み続けられればよいですが、あなたが家を出て新たに住宅を借りなければならないかもしれません。
しかし、定年退職後など、年齢によっては民間の賃貸住宅を借りるのが難しいケースもあります。そのため、住む場所についてもきちんと検討が必要です。
夫婦の財産をリストアップする
婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産(共有財産)は、原則として離婚時の財産分与の対象となります。具体的に財産分与の対象となり得るのは、以下のようなものです。
- 不動産
- 現金・預貯金
- その他経済的価値があるもの
- 保険(解約返戻金)
- 退職金
- 年金(確定拠出年金、個人年金など)
熟年離婚の場合は婚姻期間が長いため、夫婦の財産も多くなりがちです。財産が多いと、その分財産の把握や取決めが複雑になります。
そのため、よりスムーズに財産分与できるよう、夫婦の財産を調べてリストアップしておくとよいでしょう。
財産分与について、詳しくは以下のページをご覧ください。
年金分割の制度について理解しておく
熟年離婚において、「年金がいくらもらえるか」ということは離婚後の生活を考えるうえでとても重要な問題です。
そのため、年金分割の制度や手続の方法をきちんと理解しておきましょう。
年金分割は、一方の配偶者が婚姻期間中に納付した厚生年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう一方の配偶者が受け取れるという制度です。
この制度を利用すれば、専業主婦(主夫)であっても、分割された納付実績に基づいた保険料を納付したものとして、老齢厚生年金を受け取れます。
ただし、あくまで分割するのは納付実績であり、受給できる年金自体を分割するわけではありません。
また、年金分割を請求できる期限は、離婚が成立した日の翌日から2年間です。この期間を過ぎると、原則として分割の請求はできないため注意が必要です。
年金分割について、詳しくは以下のページをご覧ください。
子どもの養育費・学費について見通しを立てる
熟年離婚の場合、子どもが高校生や大学生であることも多く、もっともお金のかかる時期です。
そのため、子どもが未成年の場合は、離婚後の養育費についても考えておきましょう。
養育費には、生活費、医療費、学費などが含まれます。
ただし、子どもが私立学校や大学に通っている・通う予定がある場合は注意が必要です。
相手が任意に合意しない限り、私立学校や大学の学費を養育費として支払ってもらうことはできません。
離婚後、あなたの収入で学費をまかなえるのか、奨学金を借りる場合は将来子どもが返済できるのかなどについても、きちんと見通しを立てておきましょう。
養育費について、詳しくは以下のページをご覧ください。
熟年離婚の流れ
熟年離婚であっても、離婚が成立するまでの流れは一般的な離婚と同じです。
まず、夫婦間で話合いによる協議離婚を目指します。冷静に離婚したい理由を伝え、財産分与や年金分割などの条件について話し合いましょう。
熟年離婚の場合には、財産分与が高額になることや離婚条件が複雑になることも少なくありません。そのため、あとでトラブルにならないよう離婚協議書や公正証書を作成しておくとよいでしょう。
話合いで離婚に合意できない場合は、離婚調停を申し立て、調停委員を介して話合いをします。
さらに離婚調停でも合意できない場合、裁判所に訴訟を提起し、裁判上の手続で離婚することになります。
離婚の方法や手続の流れについては以下のページでも詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
スムーズに熟年離婚をしたいなら弁護士にご相談を
熟年離婚においては、「まさか離婚を切り出されると思わなかった」という状況になることも少なくありません。かたくなに離婚に応じてもらえないことや、話がこじれてしまうことも実際によくあります。
そのため、離婚に詳しい弁護士に交渉を依頼することも検討するとよいでしょう。
弁護士であれば、交渉のノウハウを駆使して、あなたの代わりに冷静に相手と話合いができます。
また、弁護士は、一般の方には認められていない「弁護士会照会(23条照会)」という権限をもっています。この権限を使用すると、たとえば配偶者名義の預貯金口座の有無や金額などを調査することが可能です。
これにより、より適切かつスムーズに財産分与の取決めをすることもできます。
「夫婦で話し合うのが難しそう」、「財産分与が複雑でよくわからない」と感じている方は、一度弁護士にご相談ください。
まとめ
熟年離婚は、婚姻期間が長い分、財産分与などお金に関する取決めが複雑になりやすいため注意が必要です。
きちんと準備をせずに進めてしまうと、離婚後に後悔することにもなりかねません。
離婚したあと、安定した老後の生活を送るためにも、適切に取決めをして離婚協議書や公正証書などの書面に残しておきましょう。
夫婦間で話合いがまとまらない場合や、財産分与について適切に取決めたい場合は、離婚に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
アディーレ法律事務所には、離婚問題に関する豊富な経験やノウハウを持った弁護士が在籍しております。熟年離婚でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
監修者情報
- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。