熟年離婚の財産分与の注意点や相場は?持ち家・退職金・年金はどう分ける?
- 公開日:2025年12月26日
- 更新日:2025年12月26日
熟年離婚では、適切に「財産分与」を行うことがとても重要になります。
財産分与で得たお金や資産は、安定した老後の生活を送るための大切な資金源となるためです。
一方で、熟年離婚の財産分与は、財産の調査や分与の方法が複雑になりやすい傾向があります。
正しい知識がないと、損をしてしまう可能性もあるため注意が必要です。
そこでこのコラムでは、熟年離婚の財産分与の相場や特徴、注意すべきポイント、具体的な財産分与の方法などを弁護士がわかりやすく解説します。
離婚を有利に進めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
この記事を読んでわかること
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熟年離婚で重要な財産分与とは?
離婚の際の財産分与とは、婚姻生活中に夫婦で協力して築いた財産を、夫婦の貢献度に応じて分配することをいいます。
熟年離婚の場合、離婚後にご自身でゼロから財産を築くことや、収入を大幅に増やすことが難しくなるケースも少なくありません。
そのため、きちんと財産分与を取り決めておくことがとても重要です。
財産分与で資産を得られれば、離婚後のお金の不安を軽減し、安定した老後の生活設計を立てられるようになります。
熟年離婚で財産分与の対象となるもの
財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた「実質的な共有財産」です。
たとえば、以下のようなものが実質的な共有財産として財産分与の対象となり得ます。
- 現金・預貯金
- 保険
- 不動産(持ち家など)
- 退職金
- 個人年金
- そのほか経済的価値があるもの
一方で、「夫婦の一方が結婚前から所有していた財産」や「結婚したあと夫婦の協力とは無関係に取得した財産」は、「特有財産」として財産分与の対象にはなりません。
熟年離婚における財産分与の割合
財産分与では、婚姻期間中に夫婦が築いた財産を、原則として「2分の1」の割合で分配します。
この割合は熟年離婚においても変わりません。
また、以下のような要素によっても基本的には財産分与の割合が変わることはありません。
- 収入の有無
- 子どもの有無
- 離婚原因の有無
ただし、夫婦の役割分担の偏りが大きい場合や、一方の特殊な能力で財産を築いた場合など、「貢献度が等しい」といえないケースでは、例外的に財産分与の割合が修正されるケースもあります。
詳しくは以下のコラムで解説していますので、参考にしてみてください。
熟年離婚の財産分与の相場・平均額
司法統計によると、婚姻期間20年以上の夫婦が裁判手続き(調停・審判)を通じて離婚した際の財産分与額は、半数以上が600万円を超え、約3割は1,000万円を超えています(算定不能・総額が決まらない場合を除く)。
婚姻期間20年以上の夫婦の財産分与額

※上記のグラフは『令和6年司法統計年報 家事編 第27表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件数 財産分与の 支払額別婚姻期間別』に基づき、当事務所が独自に作成したものです。
※%=小数点第二位以下四捨五入
熟年離婚の場合、婚姻期間が長い分、夫婦で築いた財産も増えていることが多いです。
そのため、熟年離婚における財産分与の平均額は、高額になる傾向があります。
熟年離婚の財産分与の特徴
そもそも熟年離婚は、一般的に20年以上の婚姻期間を経て離婚するケースを指すことが多いです。
そのため、財産分与において主に以下の2つの大きな特徴があります。
- 財産の金額が大きくなりやすい
- 財産調査や分割方法が複雑になりやすい
それぞれ詳しく見ていきましょう。
財産の金額が大きくなりやすい
一般的に、婚姻期間が長くなればなるほど、夫婦の財産は増えていきます。
長年連れ添った中高年の夫婦であれば、老後資金を貯蓄していることも少なくありません。
退職金や不動産など、そもそも金額の大きな財産を分けるケースも多いです。
そのため、熟年離婚では財産分与の金額が大きくなりやすいといえます。
財産調査や分割方法が複雑になりやすい
婚姻期間が長くなればなるほど、財産の全体像を把握するのが難しくなりがちです。
たとえば、用途によって預貯金がいくつもの口座に分けられている場合、それらをすべて洗い出さなければなりません。
独身時代と結婚後の財産が混在している場合には、特有財産を特定し切り分ける必要があります。
また、持ち家や退職金、年金などがある場合、分割方法が特に複雑になりやすいため注意しましょう。
熟年離婚で持ち家・退職金・年金はどう分ける?
熟年離婚の財産分与において、「持ち家」「退職金」「年金」は、特に高額であり老後の生活にも関わる重要な財産です。
しかしこれらの財産は、預貯金などのように単純に半分に分割することができません。
以下で、それぞれの具体的な分け方や注意点を見ていきましょう(※)。
※実際には、夫名義の財産の合計金額と妻名義の財産の合計金額を出して、夫の金額と妻の金額が均等になるように一方から他方に金銭を支払って調整することが一般的です。
持ち家
持ち家は物理的に半分にできないため、基本的には「換価分割」または「代償分割」が考えられます。
換価分割とは、家を売り、その代金を原則として2分の1ずつ現金で分ける方法です。
もっともシンプルで公平かつ明確に財産分与でき、将来のトラブルにもなりにくい方法といえます。
換価分割

代償分割とは、夫婦の一方が家に住み続け、もう一方に代償金(評価額の半分相当)を支払う方法です。
家に住み続ける側は環境を変えずに済む一方で、代償金を支払うためにまとまったお金を用意する必要があります。
代償分割

なお、住宅ローンが残っている場合は、ローンの状況によって財産分与できるかどうかが変わるため、注意が必要です。
持ち家の分け方について、詳しくは以下のページをご覧ください。
退職金
退職金は、すでに受け取っている分はもちろん、将来受け取る予定のものであっても、基本的には財産分与の対象です。
ただし、全額が財産分与の対象となるわけではありません。
分与対象となるのは、一般的に「退職金の形成に貢献した」といえる「働いていた期間」と「婚姻期間」が重なる部分の退職金であると考えます。
財産分与の対象となる退職金

基本的には、この「分与対象となる退職金の金額」を2分の1にすることで退職金を分けることが可能です。
ただし、「分与対象となる退職金の金額」の計算方法は、退職金がすでに支払われているのか、まだ支払われていないのかによって異なります。
詳しくは、以下のページで解説していますので、参考にしてみてください。
年金
年金は、その種類によって分け方のルールが異なります。
まず、私的年金(確定拠出年金や個人年金保険など)は、預貯金などと同様に「財産分与」の対象となり、原則として2分の1ずつ分割します。
一方で、厚生年金(以前の共済年金を含む)は、「年金分割」という制度で分割されます。
年金分割は、夫婦のうち一方が婚姻中に納めた厚生年金の納付実績の一部を分割し、もう一方が受け取れる制度です。
配偶者と年金分割について合意できれば、年金事務所で手続をすることで、「婚姻期間中に納めた厚生年金保険料の納付実績」について、2分の1を上限に分割できます。
なお、国民年金(基礎年金)部分は財産分与や年金分割の対象にはなりません。

年金分割について詳しくは、以下のページをご覧ください。
熟年離婚で財産分与をする流れ
熟年離婚で財産分与をする際は、大まかに以下の流れで進めます。
以下で詳しく見ていきましょう。
共有財産を調査する
まずは、夫婦の共有財産をリストアップし、財産の種類や金額などを正確に把握しておきましょう。
熟年離婚の場合、住宅ローンが完済に近い・完済しているケースも多いため、現在の不動産価値の査定もする必要があります。
また、見落としがちなのが「へそくり」です。
へそくりも家計から貯めたお金であれば、財産分与の対象になります。
このとき財産の把握漏れがあると、公平な財産分与ができず老後の資金が大幅に減ってしまいかねません。
そのため、配偶者が財産開示に応じない場合や財産を隠している疑いがある場合などには、弁護士に依頼して弁護士会照会などの方法で調査してもらうことも検討しましょう。
夫婦間で話し合う
財産のリストアップができたら、ほかの離婚条件とあわせて財産分与について話合います。
具体的には、以下の内容について取り決めましょう。
- 財産の分割割合
- 財産分与の分割方法
- 財産の支払方法・受渡方法
- 支払期限・受渡期限
なお、熟年離婚では特に「持ち家」の分け方で揉めやすいといえます。
長年住んだ家に愛着があることに加え、新たに賃貸契約やローンを組むハードルが高くなりやすいためです。
老後の住まいをどう確保するか話し合い、現実的な落としどころを探りましょう。
話合いで合意できた場合は、のちのトラブルを防ぐためにも、取り決めた内容を離婚協議書などに残しておくことが大切です。
調停・裁判を行う
話合いで合意できない場合には、調停を申し立てましょう。
離婚前であれば「離婚調停」、離婚後であれば「財産分与請求調停」のなかで調停委員を介して話合いを行います。
調停でも合意できなかった場合は、裁判を提起することも検討しなければなりません(※)。
裁判では、裁判官がさまざまな事情をふまえて、財産分与について判断を下します。
※ただし、たとえば性格の不一致では離婚裁判は提起できず、不貞行為など法律上の離婚原因が必要です。また、財産分与請求調停の場合は、合意できないと財産分与の審判に移行します。
熟年離婚の財産分与を弁護士に依頼するメリット
熟年離婚の財産分与は、高額かつ複雑になりやすいため、弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、「弁護士会照会」を利用して金融機関などに財産の情報開示を求めることが可能です。
照会には金融機関名など一部の情報が必要であり、必ず応じてもらえるわけではありませんが、より正確に財産を調査できる可能性が高まるでしょう。
正確な財産調査をしたうえで適切な分与額の算定ができれば、財産分与で損をしてしまうリスクも減らせます。
また弁護士は、あなたの代わりに配偶者とさまざまな交渉ができます。
長年連れ添った相手と直接お金の取決めをするのは、想像以上に大きなストレスがかかるものです。
弁護士に交渉を任せることで、精神的負担や手間から解放され、安心して離婚後の生活に向けた準備を進められるでしょう。
熟年離婚の財産分与に関するよくある質問
熟年離婚の財産分与について、お客さまからよく寄せられる2つのご質問にお答えします。
専業主婦でも財産分与を受けられますか?
専業主婦の場合でも、原則として「2分の1」の割合で財産分与を受けられます。
長年、専業主婦だったからといって、それだけで受け取れる財産が少なくなることもありません。
財産分与を拒否することはできますか?
離婚時の財産分与の請求は、原則として拒否できません。
ただし、以下のようなケースでは財産分与の請求を拒否できる可能性があります。
- 婚前契約で財産分与はしないと定めていたケース
- 離婚から2年以上経過し請求権が消滅しているケース など
まとめ
熟年離婚では、婚姻期間が長い分、財産分与の金額が高額になることも少なくありません。
特に持ち家や退職金、年金などは老後の生活を支える重要な資産ですが、調査や分割方法が複雑になりがちです。
そのため、ご自身で対応することに少しでも不安があれば、弁護士に相談することも検討しましょう。
アディーレ法律事務所では、熟年離婚に伴う財産分与に関するご相談を承っております。
財産分与で損をしないためにも、まずはお気軽にご相談ください。
\専門スタッフが丁寧に対応します!/
監修者情報
- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。

